地の底から
そこは荒れ果てた土地だった。
目に付く限りの草は茶色く、枯れており、それらを主食とする動物たちの姿も見えない。
木はすぐにでも薪にできてしまいそうなほど乾いている。
一体何度地震があったのだろう。
大地はそこかしこにぱっくりと大きな割れ目を作っていた。
見渡す限り不毛の地。
ただひたすらの、乾いた砂。 時折白いものが眼につくと思えば、それらはすべて骨である。
対照的に空は青い。
きっと祈りを捧げれば、慈悲深い空は雨を降らせてくれるに違いない。
ただ空がどんなに慈愛の雨を降らせても、大地はその水を自身の上に住むものたちのためにとっておこうとは、考えてくれなかった。
大地は、自身の上に生きるものをなんとも思っていなかった。
そんな不毛な地においても、わずかに人は生き残っており、そのわずかな人を生かすだけの動物と植物がある。
もはや「人類の繁栄」などとは程遠く、次世代へ遺伝子をつなぐだけで精一杯であった。
人だけでなく獣も木も同じ状態にある。
彼らは身を寄せ合い、隠れるようにして生きていた。
人も獣も草木も鳥も、皆一様に恐れるものがあった。
彼らは「それ」無しで生きていくことはできない。
だが、「それ」は非常に気まぐれで、残酷であった。
退屈しのぎに大地を割り、人や獣をそこに落とし入れた。
突然マグマを噴出し、畑や森を焼き尽くした。
何度も地震を起こし、山と家を崩落させた。
―――「それ」の名を、「大地」という。
そして今、大地は腹を立てていた。
直接的な原因は彼らには無かったが、そんな事実は大地にとってはどうでもよかった。
大地が怒っているのだから、大地の上に住まうものたちは全て、彼の八つ当たりが終わるまで小さくなって待っていなくてはいけないのだ。
今日も大地の嘆きが聞こえる。
人の声とも獣の鳴き声とも似つかない恐ろしい音が、地の底から聞こえてくる。
―――今日は何が起こるのか。
人も獣も草木も鳥も怯え、最も被害が少なく済みそうな場所に逃げこむ。
だが、どこへ行ってもそこは、「大地」の上だった。
大地は嘆いていた。
どこを探しても彼が大事にしていた「土人形」が見つからないのだ。
土人形。
美しい土人形。
自分の上に勝手に住み、殺しても殺しても増えていく土くれ共とは違う。
素晴らしい能力と素晴らしい容姿を与えた土人形。
あと2年したら自分のそばへ… 地の底へつれていこうと思っていたのに。
そうして毎日毎日、あの美しい土人形を愛でようと考えていたのに。
突然、 …消えてしまった。
どこへいってしまったのか。
どこへ。この大地の上以外のどこへ。
大事な…美しい土人形。
自分の…私の…俺の…大事な…
「「オデノツチニンギョォオオオォオオオオオ!!!」」
今日も大地の嘆きがこだまする。
止むことのない嘆きが。
そこは荒れ果てた土地。
…ここではない、どこか別の場所。
Episode:?? 地の底から END