神官と咎人 呼び声 1



(不思議な感じ… 何かが…何かを呼んでる。)

はじめて聞く…声。 いや、単なる音だろうか。
言葉を持っているようには聞こえないのに、確かにその音の主は誰かを呼んでいる。

少女は耳を澄ませた。 声は大きくも小さくもならない。
(誰…? 何を呼んでいるの…?)
自然と足が外ヘ向く。

(… …過去?)
(… …聞こえる…。 どこへ行っても聞こえる…)

宮殿の出口に向かって歩いてみたが、やはり声は大きくも小さくもならない。
まるで頭の真上から響いてくるようだった。



あてがあるわけではないが、呼び声を放っておくことはできない。
パンセは一人、宮殿から足を踏み出した。


―――そんな少女を見送る鳥が一羽。

優雅に4枚の羽を広げ、宮殿のベランダの手すりより上に浮遊している。
その姿は日の光を浴びて七色に輝く。 彼が帯びる憂いの気配が、その神々しさを際立たせていた。

精霊オリハウラは宮殿のベランダからパンセの姿を見とめた。
たった一人で砂漠へ向かう少女を、オリハウラは呼び止めない。
オリハウラの心中はパンセの安否より、これから一両日中に訪れる忌々しいイベントのことで占められている。

パンセはどこへ行くのか。
当たり前の疑問はよぎると同時に吹き飛ぶ。

どこへ行こうと同じことだ。




どうせ、すべて巻き戻るのだから。



オリハウラは微動だにせず、ただその時を待つことにした。