神官と咎人 花と記憶 1
気がついたらベッドの上だった。
見慣れた風景、嗅ぎ慣れた匂い。
間違いなくここは「家」だった。
パンセは今の状況をすんなり飲み込む。
家で、ベッドの上で、寝ている。
ただ、それだけ。
身を起こして周りを見る。
壁に綺麗な布が飾られている。 あれは市場で買ったものだ。
鉢植えが二つ。
それと…
あれ? と首をかしげる。
物入れがない。
服を入れるために一つ、小物を入れるために一つ、物入れがおいてあったのに…
どこへいったのかしら。
しばらくそうして、物入れのあったあたりを眺めていた。
すうっと扉が開く。
誰かと問おうとして、それがオリハウラだということにすぐ気がついた。
「オリハウラ」
オリハウラはパンセが身を起こしているのに気づくと、部屋に入らずどこかへ行ってしまった。
あの精霊にしては珍しい反応だ。
いつもなら一言では足りず、余計な二言三言をつけてくる。
それがパンセにとっては楽しい会話であり、ジュノウにとっては面倒くさい小言だった。
今度は扉を眺めた。
わずかに靴が床を叩く音がする。
この音も知っている。
青い髪の神官の靴音だ。
ほんの少しの間をおいて、神官が顔を出した。
これもまた、見慣れた顔。
付き合いの薄いヒトは言う。 「優しそうだ」と。
それは顔というより、神官という職の持つ響きのせいかもしれない。
この神官はいたずらを思いついたとき、顔が輝く。
その顔を見れば、優しそうだと言っていた人間の評価は反転するだろう。
…だが、今は、素直に安堵した顔をしている。
そして表情に見合ったセリフを言う。
「大丈夫か?」
こくりと頷く。
その反応を見て、コップを持ってベッドに近づいてくる。
「砂漠で倒れていてさ、驚いたよ。」
礼を言ってコップを受け取る。
中身は …ただの水のようだ。
少し口をつける。
ジュノウは傍らの椅子を引いて腰を掛けた。
パンセは直前の記憶をたどりはじめた。
最後に覚えているのは、 …そう声が聞こえた。
ジュノウと家の帰ろうとする途中で、誰かが何かを呼ぶ声が聞こえたんだ。
そうしてジュノウに声をかけられた、「パンセ?」と。
そして…
そこで途切れた。 真っ暗に、なっただろうか?色も覚えていない。
その瞬間何が起きたのだろう。 その後、どうなったのだろう。
ジュノウなら…知っている?
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