塵の名前、灰の名前 9


”どうして?”

単純で、もっとも簡単な問いが彼の心中を占めた。

どうして少女には傷一つつかなかったのだろう。
どうして自分の右腕が砕け散ってしまったのだろう。

もちろん右腕が砕け散ったといっても、しょせんは灰の塊で。
痛くもかゆくもなんともない。
その代り怒りをぶつけたかった相手も痛くもかゆくもない。

彼の行動は何の結果も残さなかった。

”どうして?”


ガーベラは顎を一撫でする。 黒い灰が指先についた。
市場の戦利品の中から手鏡を取り出す。

黒いものが左の頬全体にこびりついているが、それ以外はなんともないようだ。
手でごしごしとこすると、灰は余計にみっともなく広がった。

オリハウラ=ベルベルタは右手があったところを見つめたまま動かない。
ぽつりと言葉が漏れた。 力が抜けたか細い声は「どうして」と言っているようだった。


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