神官と咎人 呼び声 3
「我が? お前に? 何を隠すことがある?」
「内容なんか俺が知るか!」
ジュノウの拳が傍らの鉄製の手すりを打つ。 鈍い音がした。
「何だ?これから何があるんだ?
それとも既にあったのか?!
パンセも関係のあることなのか?!」
ジュノウは眼を見開き、オリハウラのすべてを見ようとする。
「何も隠していることなど無い。」
「言えよ!オリハウラ!
俺はお前の契約主だぞ!!」
契約主が目の前で叫んでいる。 この男がここまで感情を露わにしたことがあっただろうか。
怒っているようでいて、すがりつくような、そんな異様な眼でオリハウラを見ている。
―――それでも。
「無い。 いうことなど無い。」
これが、正しい答えだった。
読んでやろうと思ったのに、考えていることなんかすぐわかるって思ったのに…
ジュノウは黙るしかなかった。
何を言っても、何を訊いても無駄だ。
こちらをまっすぐ見据えているこの精霊。
これは自分の知っているオリハウラだろうか。 まるで別のもののように感じる。
「…あくまで言わないつもりなんだな。」
「お前に言うことなどない。」
―――こいつは本当にオリハウラなのか?
「… …俺はパンセを探しに行く。」
「そうか。」
オリハウラの口から出るすべての答えが、ジュノウを裏切った。
「着いていったほうがいいか?」
「…一人でいく」
あてもなくジュノウはひとり、歩き出した。
どこへいくのだろう。
オリハウラはただそれを見送った。
「巻き戻り」
これをジュノウに言えないわけじゃない。
言ったところでどうにもならないのだから。
…言ったところで忘れてしまうのだから…
―――だから、嫌だった。
「巻き戻り」の話をした後の流れをオリハウラはよく知っている。
まずそれは本当なのか と言うだろう。
そしてなぜ起こるのか と問うだろう。
次にどうにかする手立てはないのか と考えるだろう。
そして最後に
自分はきっと忘れない と言うのだ。
…いつも… …誰もがそう言うのだ…。
虚しい。
あまりにも虚しい …慣れた、やり取りだった。
それを繰り返すのが、オリハウラは嫌だった。
あんなことを繰り返すくらいなら、巻き戻る前に多少恨まれることくらいなんでもない。
その恨みだって、消えてしまう。
巻き戻って、自分以外のものがそれに気づかないとき…
オリハウラは取り残された と強く感じる。
取り残されたくない。
だから、「巻き戻り」は口にしない。 巻き戻る前も後も。
"自分も、巻き戻りたい"
取り残さないでくれ、お願いだから。
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