神官と咎人 呼び声 5



ジュノウが少し、顔を上げた。
遠い遠い砂漠の果てを見つめるように、目を細める。
「オリハウラが、お前を探しに行かなくていいと言ったんだ。」
「そうなの」
パンセは大して気にもとめていない。 ただオリハウラがそういったという事実だけを素直に受け止めている様子だ。

「腹…立たないのか?」
「…怒る?の?」
「朝からいないのに探しに行くな なんて、薄情じゃないか」
そういわれればそうね とパンセは気の抜けた返事をする。
「オリハウラと何かあったか?」
訊くだけ無駄だとわかっているが。
隣でパンセが首を振る 気配があった。
「それを怒って、ここで座っていたの?」
隣を見やる。 不思議そうに首をかしげ、少女はこちらを見ている。

急速に頭が冷えていくのを感じた。
―――当のパンセが怒っていないのに、なぜ俺はこんなに怒っているのだろう。
もう一度、砂漠を見た。 風が砂を巻き上げて、遠くが見えない。
太陽は雲に覆われ、薄暗さを感じるほどだ。
「オリハウラは…」
ぽつりとジュノウがつぶやく。 パンセはジュノウと同じように砂漠を見た。
砂以外には何も見えない。
「俺に隠し事をしているんだ。」

英雄戦のあたりから様子がおかしかった とジュノウは続けた。
何かを隠し、本音を話さない と感じることが多くなった、と。
オリハウラはジュノウと再契約したあとは、それほど自由に動き回らなくなったが、それでもパンセと話をすることは多かった。
だがパンセ自身はそんな変化に気づきもしなかった。

「気づかなかったわ」
パンセの素直な感想にジュノウは驚いた様子を見せた。

―――俺だけが思っていたことなのか。
明らかにオリハウラの口数が減っていた。
ぼんやりと空を見上げている姿を何度も目にした。
最初のうちは「らしくない」と笑っていたが、時間が経つにつれ、空に何かあるのではないかと思うほど回数が増えていった。
何かあるのか と聞けば、何もない と返事をし、そそくさとその場を離れていくその背には、
隠し事、秘密、嘘をただよわせていた。



―――それが嫌だった。