神官と咎人 呼び声 6



「ジュノとオリハウラは仲良しよね」
物思いにふけっていたジュノウはその言葉にぎょっとした。

「な 仲良し?! その真逆をいくんじゃないか、俺たちは?」
「…え? 仲良しよ。 友達でしょ?」
その意見には納得できない。 眉間にしわをよせて抗議をする。
「違う、ただ契約を交わしているだけだ。」


―――契約。 精霊と人が交わす約束事。
精霊は自身の力を人に提供する見返りに、様々なものを要求する。
時に契約者の体の一部、時に宝石、  ―――時に契約者の子ども。
契約不履行の際には、契約者の命を捕るものがほとんどだ。
それでも、それだけのリスクを背負っても良いと思えるほどに精霊の力はすさまじい。

度の過ぎた力と契約条件を提示する精霊は、ときに「悪魔」と呼ばれる。

オリハウラが天使だとは思わない。
だが、契約条件を全く示さない精霊は珍しい。

…でも俺たちは友達じゃない。 契約した人と精霊ってだけなんだ。

あぁ、とパンセが頷いた。
「けいやく… ジュノとオリハウラがこの間していたやり取りのことね。」
そう、とジュノウが応える。
「あれが契約を交わすやり取りだ。
 最初のときはほとんど取り決めなしで契約を交わしたから、オリハウラがいろいろうるさくてさ。」


名前をきちんと呼べ 最低限のマナーだ と騒ぐ精霊の姿を思い出す。
あまりに長すぎる名前に、ジュノウは早々に白旗を揚げる。
―――無理だ。いちいち呼べるか、そんな長い名前。
憤るオリハウラに契約破棄を伝える。
このときもまた、契約不履行の際の取り決めをしていなかったため、簡単に破棄できてしまったのだ。
おい、考え直せ とついてくるオリハウラにジュノウは言った。
―――契約時になかっただろ? 君の名前を全部呼ぶこと、なんて。


その瞬間、ジュノウは思い出から現実に戻った。
見つけ出した。

自分の中にある矛盾を。

契約に無い。
そう、契約に無いんだ。

隠し事をしてはいけない なんて。
嘘をついてはいけない なんて。

そんな契約していないんだ。