神官と咎人 花と記憶 4



「その瞬間」は未だに不快とも心地よいとも、はっきりした感想が出せない。
迎えるのは何度目だったか…。 今回もなんともいいようのないものだった。


巻き戻る瞬間、オリハウラは一人だった。
巻き戻りの日の朝、パンセは家を出てどこかへ行ってしまい、ジュノウはそんなパンセを探しに行った。
特別な日とはいえ、引き止める理由も無かったからオリハウラは素直に送り出し、たった一人でそのときを待った。

決して待ち遠しいものじゃない。
だがこの日を迎えてしまった以上、さっさと終わりにして欲しい。
忌々しげに空を睨んで待ち続けた。
「その瞬間」は不快ではなくとも、「その瞬間」が来るということがオリハウラには不快でならなかった。

音がしたような。色が変わったような。

大地が割け、空が割れたような   …そんな気がした。

「終わったのか…」
誰に言うでもなく言葉が出た。

終わったというべきか、始まったというべきか…。
少なくともこれからまた、3年ほどはそれについて考えなくて済む。

ふぅと息を吐き出す。
自分は変わっていない。  …変わっていないはずだ。
巻き戻りのことも覚えている。 自分の契約主のことも覚えている。
大丈夫… 大丈夫だと自分に言い聞かせる。

外から声が聞こえた。
呼びかける声。

あれは  …ジュノウの声だ。
足音を立てずに外へ出ていく。
自分を呼ぶ声は思ったより遠くから聞こえてきた。
自分の名を呼ぶ声 …ジュノウはオリハウラのことを忘れていない。

精霊は、足取り軽く契約主のもとへ駆け寄っていった。
ジュノウはたった一言で用件を伝えてきた。

「この人を家まで連れて行ってくれ」
彼は背におぶった人を指して言う。
砂と汗にまみれ、ジュノウはかなり疲れている。人を運ぶのに、オリハウラの手を借りたいということはわかった。
だが彼が「この人」と指したのは間違いなく…

「この人…?」
どこをどう見てもパンセである。
ジュノウはパンセを、自分の背中からオリハウラの背中へと移す。
何の淀みもなく、数秒でその作業を終えた。

精霊は夢見心地で、契約主の後について歩いていく。
「この人?」
もう一度声に出して行ってみた。 ジュノウは「うん?」と振り返ってこっちを見たが、それ以上は何も反応が無かった。