神官と咎人 花と記憶 6



何の冗談なのか とか、何でわからないの とか…
そんなことを言いながら、パンセはジュノウに掴みかかると、そう思っていた。
何しろ…自分のときがそうだったから。

ジュノウの話し声が止んだ。
扉がきしむ音がして、ジュノウがオリハウラの居る部屋に入ってきた。
「休みたいってさ」
ジュノウは何も変わらぬ様子で言う。
察するに、パンセはジュノウに何も言わず、何もしなかったらしい。

…まだ彼女も状況がわかっていないのか。
ジュノウはパンセのために、と おかゆを作り始める。
たとえ彼女の名前を忘れても、なぜ目隠しをしているのかを忘れても、ジュノウの中身は変わらない。水を差し出したあの時と、何も変わっていない。
彼は初めてパンセと会ったときと同じように、彼女に接するだろう。

眼が無いことがわかっても、彼は恐れずパンセを保護するだろう。

それでいいじゃないか。
思い出は作り直せばいい。
それで――… 十分じゃないか。

オリハウラは気づいた。
まるで、過去の自分を慰めているようだ と。

心の底からため息をついて、家を出た。

ギシリギシリ と、軋む音を立てて 過去がオリハウラのそばにやってくる。
嫌な記憶だ。 悲しくて空しくて孤独だった記憶。
もういっそ、同じように巻き戻りの影響を受けてしまえばなんとラクなことか と、常々考える。
きっとパンセも…


「オリハウラ」
聞き慣れた声が届いた。

ぎょっとしてオリハウラは振り向く。 ふいをつかれ、動揺した反応になった。
パンセが後ろに立っていた。
存在しない眼でオリハウラを捉え、歩みを進めてくる。
「オリハウラ」 彼女はもう一度呼んだ。
パンセには、頭の整理がついてから接するつもりだった。
だが、パンセがオリハウラに近づいてくるほうが早かった。 彼女も混乱はしているはずだが、嘆くより先に状況を確認したかったのだろう。

それはオリハウラの予想外の出来事となり、その様子はパンセに、オリハウラが動揺していることを強く伝えてしまった。

「ねぇ、ジュノが変なの」パンセは構わず話を始めた。
「おかしいのよ、私のこと …忘れているみたいなの」
オリハウラはまだどう対応すべきか考えている。