神官と咎人 花と記憶 8







ジュノウはパンセに名を尋ねた。
パンセは躊躇しながらも答えた。
名は、パンセだ と。

(あなたにもらった名前なのよ…)
彼は言った。
「行くあてがないのなら、ここにいるといい。」

ジュノウは知らない。
パンセがジュノウからその言葉を聴くのは二度目だということを。



再び、3人の生活が始まった。

パンセはこの家を隅々までよく知っていた。
当然のことだ、3年もここに住んでいたのだから。

自分の部屋に見当たらなかった物入れは、玄関の脇にひっそりと置かれていた。
その中にパンセにぴったりの服が入っていたのを、ジュノウは驚いていた。
当然のことだ、 パンセの服なのだから。

それでもパンセは驚くジュノウにあいまいな返事を返すことしかできない。

自分の服だと、言ったところでどうなるだろう。
ジュノウの記憶から完全にパンセのことが消えていたし、オリハウラもなぜかはわからないがパンセのことを知らないと言い張っている。

どうにもならないだろう。
おかしなことを言ったという記憶だけが、ジュノウの脳に刻み込まれるだけだ。

「偶然」は続く。

"Pansee"と刻まれた食器一式が食器棚におさまっていたのだ。
「こんな食器があったのか」
ジュノウ・サーレルは訝しげな顔をして、「まさに君専用だ」とその食器を机に並べた。

PanseeのPがDに見えなくもない。いびつな文字。
…パンセがジュノウに習って刻んだ文字。

「私のものだからジュノは使わないでね」

…そんなことを言った事もあったっけ…。


なお、偶然は続く。
ジュノウは不思議そうにしながら品々を眺める。
パンセがこの家において何一つ不自由しないだろう。
ジュノウが何かを用意してやる必要もない。

すばらしい偶然だった。

そして、当然のことだった。