神官と咎人 花と記憶 10
遠くで音がした。
音… …足音。たくさんの足音。 …金属の音。
馬の嘶き。 矢が風を切る音。
臭いが…する。
草、土、砂、…火薬
鉄 …? 違う。 …血。
戦いの臭い。
「オリハウラ!パンセ!」
ジュノウが急き込んで家に戻ってきた。
手に持った紙がぐちゃぐちゃになっている。
「おい、始まったらしいぞ、…戦争が!」
これを見ろとぐちゃぐちゃの紙を必死に伸ばして、机に広げる。
オリハウラと二人、しわしわの紙を覗き込んだ。
それを
その紙を ――――見たことがあった。
他国の侵攻と情勢を伝える号外のニュース。
一番上に大きく「ついに始まった大戦争」と書かれている。
大陸を5つに分けた国々が互いに攻めあうという悪夢を報じている。
ニュースの論調から見るに、この記者は強硬派らしい。
「まぁ…今までこうならなかったのが不思議なのかもしれないけどな…」
ジュノウはしみじみとニュースを眺めている。
「また…?」
視線がパンセに集まった。
よくよく思い出してみれば、パンセは二人の前でほとんどしゃべっていなかった。
何を話していいのかわからないし、そもそも状況がまったくつかめていなかったからだ。
そんなパンセが言葉を発したのだから、ジュノウとオリハウラが揃ってパンセに注目してしまったのも無理はない。
「また…って?」
二人の視線に気後れして続きを伸べないパンセを、ジュノウがそっと促す。
「だって… …この間終わったじゃない…」
「はははははは!」
ひどく耳障りな笑い声を立ててオリハウラが二人の間に割って入ってきた。
2本のしっぽを、パンセとジュノウを追いやるように動かす。
「パンセ嬢はご存知ないやもしれぬが、以前から起きておったのは所詮小競り合い。
戦争とはとても呼べぬ代物よ」
笑い声を更に大きくする。
「小競り合いなんかじゃないわ。大陸を分けた戦争でしょ?オリハウラだって…」
「いやぁ、ならば勘違いであろう。
起こる起こるといわれておる戦争だから、”戦争が起きた夢”でも見たのだろう」
まさに正夢 と付け加える。
パンセの反論は、オリハウラの笑い声にかき消されうやむやになってしまった。
ジュノウは二人のやり取りをポカンと聞いていたが、「勘違い」と言う言葉でストンとはまったらしく、追求はしなかった。
とにかく戦争になっているんだ。 俺たちの仕事も増える、気をつけよう とまとめてしまった。
(どういうこと…?なんでまた戦争なんか起きるの…? それに…)
オリハウラの反応は、おかしかった。
いかにも具合の悪いことを言われた という反応だった。
(戦争に…なにか、あるのね…)
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