神官と咎人 花と記憶 11
青く、すがすがしい。
そう呼ぶのがふさわしい空が広がっている。
今日、オリハウラは非常に機嫌がいい。
なぜかといえば、ジュノウが出かけていないからだ。
いやいや、ジュノウがいないことが嬉しいわけではない。
居ない間の留守を任されたことが、嬉しいのだ。
契約主は自身が契約した精霊のことを、留守に置いていっても役に立たないどころか、余計なことをするトラブルメイカーだと考えていた。
だが、今日は「頼んだ」の一言が出たのだ。
嬉しい。
いや、嬉しいもんか。
普通だ、普通。 子どもだって留守番くらいする。
よし、我がしっかり留守を守らねばな。 こんな辺鄙なところに泥棒も来やしないだろうが。
無意味に家の巡回などをしてみる。
…とはいっても部屋数4つにダイニングにキッチン。
どんなにゆっくり回ってみても10分で十分である。
念のため裏にも回り、のべ20分の巡回を終える。
大仕事を終えるとオリハウラは床にべったりと伏せった。
今頃ジュノウは何をしているかな。
今日は知り合いに会いに行くと言ってたが…
「オリハウラ」
あぁ、なんだか最近、やけに名前を良く呼ばれる気がする…
立ち上がって声の主を見やる。
当然ジュノウではない。 …パンセだ。
そうだ、彼女が居た。しかもジュノウが居ない…
この状況はまずい。
くるりと向きを変えて部屋を出て行こうとする。 避けるどころではない。逃げようとしているのだ。
露骨に逃げ出そうとするオリハウラの足元に黒い渦が現れた。一瞬足を止める。
だが、この渦に拘束力はない。
ぴったりと張り付いている渦を無視して、再びその場から逃げようとする。
「待って」
パンセが発したその言葉はあまりにも予想通り過ぎて、オリハウラの行く手を遮ることはできない。
…はずだった。
どういうわけか、オリハウラの足は動かない。
まるでパンセの言葉で魔法にかかってしまったように。
冷静だ。 間違いなく自分は冷静だ。
この黒い渦はあくまでも敵意を読むだけで、物体をとどめるような力は持たない。
パンセとは3メートルも離れている。彼女には何も出来ない。
なら自分はここにとどまりたいと思っているのか?
否、今すぐここから去りたい。
ならなぜ足が動かない?
オリハウラは冷静だ。
冷静だから1分ほどで気がついた。
何者かがオリハウラの足を引っ張っているのだ。
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