神官と咎人 花と記憶 12







その邪魔をする何者かは、パンセを守っている護衛だった。
存在感が希薄でパンセ自身にも気づかれていない。 
今こうしてオリハウラの足止めをしている瞬間も、パンセには認識されていないだろう。

それでも…

彼女を守り続ける忠実な… 護衛者。

ウリフェラ。
その名を知るのはオリハウラただひとり。


ウリフェラは四肢と思われる部分をオリハウラの後ろ足に巻きつけている。
何かを言っているようだが、聞き取れない。
だがきっと、パンセと同じことを言っているのだろう。

「待って」 と。


―――パンセのために …待って。
オリハウラの体は、いくらでも替えのきく器に過ぎない。
どんなに必死でウリフェラが頑張っても、とどめられるのは彼の器だけだ。

その気になればこの体を塵と風に戻し、捉えられない「意識」だけになって浮遊し逃亡することなんぞ容易い。 何の障害もない。

パンセはオリハウラのそばにただ突っ立っていた。
黒い渦は相変わらず足元でぐるぐると渦巻いている。
ウリフェラは必死に足に体を巻きつかせている。

オリハウラは…  ウリフェラを見ていた。

ウリフェラとパンセの関係は、オリハウラとジュノウの関係とは違う。
パンセが生まれたときから護衛としてそばに寄り添い、今まで… そしてこれからもきっとパンセ自身に認識されることはない。
ただウリフェラは守り続けるだけだ。

哀しくないのか? お前は…。
大事な人に気づかれず、話も出来ず、感謝もされず。

それでも守るのか? お前は。
なぜ守るのだ?
今ここでこうして、お前が守ろうとしているものはなんだ?
それでいったい何を得るのだ?



――――得るもの… あるじゃないか。
  


「待って」と発してからたっぷりの間を取って
オリハウラはパンセのほうを向いた。

「何の用か」
こともなげにオリハウラは尋ねる。 その前の間などなかったのように。
何を考えていたのかわからない。
ただ、オリハウラがパンセの呼び止めにまともに反応したのは、これが初めてだった。