神官と咎人 花と記憶 17







「…パンセ」
当然まだ料理は出来上がっていないはずだが、ジュノウは火を止めてしまった。
やっと話を聞く気になったらしい。

「パンセがなんだって?」
「パンセ嬢はここにいたのだ、ジュノウ。」
ジュノウの眼がゆっくりと左から右に動く。
「ここに住んでいた ということか?」
「そうだ。」
「ここは彼女の家だったということか?」
「そうだ、そして」


「お前と我と共に、ここで暮らしていた。」

ジュノウの眼が虚空を見つめたまま停止した。
「…そこに俺はいない。」
「いいや、居た。」
「お前はおかしいぞ オリハウラ。
 俺が彼女を連れてきたのは1ヶ月前だ。お前だってその時、知っている人だとは言わなかったじゃないか」
「う… それは…」
痛いところを… しかしこの部分の詳細を説明すれば話が逸れてしまう。

「わ… 我は思い出したのだ。今日彼女と話をして思い出したのだ。
 とにかく、彼女はここで我々と暮らしていたのだ。」
「そんな大事なことを俺が忘れると思うのか?!」
ジュノウのいらだった声が家中に響く。

すべてを記憶から消してしまったジュノウにしてみれば、オリハウラのいうことのすべてが受け入れられないことだった。
わけのわからない話をされるだけならいい。
だが、オリハウラは真剣だった。必死さがジュノウにも伝わってくる。
だからこそジュノウは苛立った。


「お前がパンセ嬢を連れてきたあの日、どうしてお前は砂漠にいたのだ。」
また、わけのわからない話題。
「どうしてって…。」
そんなこと…。

…そんなこと…。


「どうしてって…。」



どうしてだ…?


「覚えていないのか?」
「まさか。 たった1ヶ月前のことなのに。」

そうは言ってみたが、記憶があいまいな気がする。明確な答えが出てこない。
なんとなく…砂漠に行ったのか?目標もなく?
…いや、俺はそういうことはしない。どうしてあの日、砂漠に行ったんだっけ…