神官と咎人 花と記憶 25







―――思い出したい。

俺はパンセと会っている。
ずっとパンセと暮らしていたんだ。
心は確信している。
なのに、どうして、俺の記憶の中にはパンセがいないんだ。


…思い出したい!
パンセの隣へ行って、肩を抱いてやりたい。
笑顔で「もう大丈夫だ」と言ってやりたい。


思い出したい。
思い出したい。

思い出したい。

俺はパンセとずっと

ずっと――…



―――それでも俺は、思い出せない。


「オリハウラ!」
精霊は部屋の外で中の様子をうかがっていた。
パンセは肩を震わせたままこちらを見ている。

ジュノウはそばによってきたオリハウラにすがりついた。
「オリハウラ!教えてくれ!
 俺はどうやったら思い出せるんだ?!」
オリハウラは何も発しない。 ただ膝をついて懇願するジュノウを黙ってみていた。
「わかるんだ… わかったんだ。 俺は、大事なことを忘れたんだ。
 そこまでわかっているのに…」

「思い出せないんだよ…」
パンセから涙が落ちない代わりに、ジュノウの眼から涙が落ちた。
「どうしたら俺は思い出せるんだ?!
 オリハウラ、お前なら知っているだろう?」

何をすれば、どうすれば…
オリハウラの器の首をつかんで、ジュノウは返事を待った。
思い出せ と言っていたじゃないか、オリハウラ。
頼むよ …頼むから教えてくれよ!

「我にもわからぬ」

嘘だ。 そう、言いたかった。
まだジュノウの頭の片隅に冷静さが残っていたから、瞬時にそれは事実だと判断してしまった。
知っていたなら、こんな回りくどいことをせずに思い出させてしまえばいいことなのだから。
それをしなかったのは、出来なかったからだ。
オリハウラは言ったじゃないか。 「思い出せ」と。
それはジュノウ自身にしかできないことだ。


「我も忘れられたことがある。 ずっと昔の契約主に。」
オリハウラはそれ以上言わなかった。
続きは言わなくてもわかる。 その契約主がオリハウラを思い出すことはなかったのだと。


パンセはジュノウを見ていて悟った。
彼は… 彼の頭の中にはもう、パンセとの3年間の記憶が存在しないのだ。
塵ひとつ残さずに綺麗に消え去っている。

無いものを引っ張りだすことはできない。  ―――不可能。
もはや、ジュノウがパンセと過ごした3年間を思い出すことは   …出来ない。